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アバドは、ここで楽曲としての魅力を極限まで追求する。それは、イ・ムジチのイタリアンな爽やか派でも、ホグウッドのような古楽系でもない。長調の「春」や「秋」も、軽やかで魅力的だが、素晴らしいのは「夏」の3つの楽章だ。弦楽は、轟音となって降り注ぎ、圧倒的な音圧で疾走する。アバドとクレーメルの「四季」は、聞き流すものではなく、思わず聞き入ってしまうような種類の音楽になっている。完璧に刻み上げたアバドの音楽と弦楽群の音圧を、クレーメルがヴァイオリン1本の響きと存在感で支えている。「冬」の緩徐楽章は、クリスタル・ダブとでも言いたくなるような、透明で軽快な世界が出現する。アバドの「四季」は、現代の音響系(エレクトロニカ)や、ダブ・ミュージックを思わせる現代性を備えている。それは彼がバロック音楽の原点にまで遡り、ヴィヴァルディ音楽の魅力に肉薄しているからだろう。音楽の根源までさかのぼり、到達した時の響きと演奏は、つねに現在的で、古くなることがない(グレン・グールドのように)。日本語の解説文も優れていて、「四季」が持っている表題性、風景描写性を丁寧に説明している。この解説文を読みながら、アバド「四季」を聴くと、音楽がより魅力的に聴こえてくる。